弁護士による会社破産手続・再生手続SOS

事業信託

著者: 弁護士法人みらい総合法律事務所 
代表社員 弁護士 谷原誠

(1)事業信託とは

事業信託とは、文字通り「事業」を「信託」することです。事業というのは、商品や仕掛品、器械などの動産、売掛金や預金などの債権、建物などの不動産、借入や取引上の買掛金などの債務、従業員などの人、というように、様々な権利義務関係が錯綜した有機的一体としての財産です。事業信託というのは、動産や不動産、債務などの有機的一体としての財産を信託するものです。

図で示すと、下の図のようになります。下の図で、X社が甲事業を営んでいるとして、この甲事業がうまくいっておらず、事業を再生したいという希望を持っているとします。そして、Y社という経営力のある会社がある場合に、一定期間甲事業をY社に預け(信託)、Y社が甲事業を行って事業を再生します。そして、当初定めた一定期間後、Y社に甲事業を 買い取ってもらったり(M&A)、あるいはX社に甲事業を返してもらったりします。

事業信託
事業信託

では、具体的に事業信託は、どのように行うのか、ということですが、イメージとしては、事業譲渡に似ています。事業信託も事業譲渡と同じように、何月何日の時点での、どの動産や債権、債務を信託するか、ということを明確にして、契約書に盛り込まなければなりません。事業譲渡は、通常の売買のように、売ってしまったら終わりです。しかし、信託の場合には、契約に定めた期間、ずっと続く点が異なります。そして、場合によっては、信託期間終了時に、事業を第三者に事業譲渡してしまうことも可能です。その意味で、事業譲渡よりも事業信託の方が自由度はかなり高いと言えるでしょう。

ところで、事業が成功したときのこと考えて、事業信託の場合には、配当をどうするか、Y社の信託報酬は定額なのか、あるいは成功報酬なのか、という点を定めておかなければなりません。さらには、契約期間を何年間にするか、その期間が経過した後は、どうするのか、を定めておく必要があります。

信託は、内容を自由に設計できる点に特徴がありますので、契約期間が終了した後に、事業をX社に戻すこともできますし、そのままY社に売却することもできます。もちろん、解散して清算させることもできます。どうするかを契約書に盛り込んでおけばよいのです。

(2)事業再生時における注意点~詐害信託

詐害信託とは

使い勝手のよい信託制度ですが、事業再生で事業信託を活用する際に、注意すべき点がいくつかありますので、ここで説明します。

倒産する会社が倒産前に不動産や商品、売掛金などを第三者に譲渡する場合があります。自分が一生懸命築いた財産を債権者から守ろうという行為なのですが、この場合、債権者は、詐害行為取消権を使って、第三者に譲渡された不動産や商品、売掛金などを取り戻すことができます。仮に、倒産会社が破産申立をしたときは、破産管財人が「否認権の行使」として、債権者にかわって譲渡された財産を取り戻します。したがって、このような詐害行為になってしまう場合には、せっかく財産を第三者に譲渡したとしても、無意味になってしまうので注意が必要です。

ところで、信託には、倒産隔離機能があり、それが信託の魅力でもあります。信託を設定すると、信託財産が、委託者の財産から隔離されてしまいます。そうなると、委託者の債権者は、信託財産を差し押さえることができなくなるのです。これが、信託の倒産隔離機能です。委託者が倒産しても財産が隔離されている、という意味です。

もちろん、委託者が受益者でもあれば、受益権を差し押さえることはできます。しかし、受益者が第三者の場合には、委託者の債権者は、信託財産を差し押さえることもできませんし、受益権も差し押さえることができなくなってしまい、不当な差押え逃れを許してしまうことになります。先ほど説明した民法上の「詐害行為取消権」は、信託の場合には使えないです。

そして、また信託を設定した後に委託者が破産しても、信託を設定した信託財産は、破産財団にも組み込まれませんので、その財産は守られることになります。このことは、裏を返せば、債権者の権利が害されることになるのです。

ここまで書くと、倒産しそうな場合には、信託さえしておけば財産を全て守れそうな気がしてきます。しかし、実はそれほどうまくいかないようになっています。信託法を作るときに、銀行側からは詐害行為に対する警戒をするように厳しい意見が出ていたのです。

そこで、信託法では、信託の設定が債権者の権利を害するような場合には、一定の要件のもとに信託の設定を取り消すことができる旨を定めています。また、同じく一定の要件を満たす場合には、委託者が破産・民事再生・会社更生などが開始されたときには、破産管財人等は、信託の設定を否認して、破産財団等に組み入れることができる旨定められています。これらが「詐害信託」です。

せっかく築き上げた財産を防衛するために信託を設定しても、後で債権者から詐害信託として信託を取り消されてしまっては元も子もありません。信託を設定する際には、詐害信託にならないよう注意が必要です。