会社の資金繰りが厳しくなって倒産を考える際には、会社の再建を目指す倒産手続きにすべきか、会社を清算する倒産手続きをすべきか悩む経営者の方は多いでしょう。
倒産手続きにはいくつかの種類がありますが、会社更生法はどのような手続きなのでしょうか?
ここでは、会社更生法の手続きについて解説します。
また、再建型の手続きには「会社更生法」と「民事再生法」の2種類があるため、それぞれの違いについても解説します。
会社の倒産手続きには、「会社更生」「民事再生」「破産」「特別清算」の4種類があります。
会社更生法ではどのような倒産手続きになるのでしょうか?
倒産手続きとは、債務超過や債務の支払い不能状態に陥り、会社の経営が難しくなった場合に裁判所へ申立てて行う手続きです。
倒産手続きは大きく分けると、「清算型」と「再建型」の2種類があります。
清算型とは、会社の財産を処分して法人格を消滅させる手続きです。
清算型は、破産と特別清算の2種類の手続きが該当します。
一方で、再建型は会社を存続させながら債務を減額し、経営の再建を目指すための手続きです。
再建型は、会社更生と民事再生の手続きが該当します。
会社更生法とは再建型の倒産手続きで、経営困難になった企業を倒産させることなく事業を継続しながら再建することが目的です。
会社更生法第一条では、以下のように定められています。
この法令から分かるように、会社更生法は株式会社を対象とした再建手続きです。
2010年には日本航空や武富士が会社更生法を利用し、会社の再建を果たしています。
会社更生法は裁判所へ申立てを行い、会社更生法に沿って手続きを行います。
出典: e-Gov法令検索「会社更生法」
会社更生法はどんな企業でも利用できるというわけではありません。
以下の要件を満たしている場合に手続きが認められます。
会社更生法は、株式会社のみを対象とした再建型の倒産手続きについて定められた法律です。
株式会社以外の場合、会社更生法の手続きは認められません。
株式会社が対象の手続きではありますが、相当に大規模な株式会社に適した手続きであるといえます。
会社更生法の要件については会社更生法第十七条に規定されており、第一項には「破産手続開始の原因となる事実が生ずるおそれがある場合」とされています。
つまり、破産手続をする可能性がある状態に陥っていることが適用条件になります。
支払不能や債務超過などのケースが該当します。
支払不能は債務を返済する資金が尽きてしまっている状態を指し、債務超過は会社の抱える債権が会社の資産を超えている状態を指します。
会社更生法第十七条第二項には、「弁済期にある債務を弁済することとすれば、その事業の継続に著しい支障を来すおそれがある場合」と定められています。
つまり、返済期限の債務を返済することで事業の継続ができなくなるケースを指します。
支払不能や債務超過になっていないものの、返済することで事業の継続が困難になる場合も会社更生法が適用されます。
倒産しそうになっている企業にとって、会社更生法はメリットが大きい手続きといえます。
会社更生法の主なメリットについてみていきましょう。
会社更生法は会社を存続することを目的とした手続きになるため、事業を継続させながら経営回復を図れる点が大きなメリットです。
事業を継続できることにより、これまで積み重ねてきたノウハウや技術などを失うことなく維持できます。
事業を継続できれば従業員の解雇も避けられるため、優秀な人材の流出を妨げられます。
ただし、会社の中で主要とされる事業は継続になるものの、非効率と判断される事業に関しては見直しが必要になります。
会社更生法の手続きが開始されれば、債権は更生計画に組み込まれるため、債権の回収に制限をかけられます。
担保権や租税など優先権を有す債権も例外ではありません。
債権者が債権や担保を回収するための権利の行使に制限をかけることは、会社更生法の大きなメリットでしょう。
会社更生法の手続きが開始された場合、会社法の特則が適用されます。
それにより、合併や株主総会、増資、定款の変更など組織を再編するための手続きを簡略化できます。
会社の再建に伴い、組織の再編の強化が効率よく行える点はメリットといえます。
会社の再建のために合併や分割が必要になる場合、更生計画に含めることが可能です。
会社更生法は倒産しかけている企業にとって大きなメリットはあるものの、デメリットも存在します。
デメリットについても理解をした上で、手続きをすべきかどうか再度検討しましょう。
会社更生法の手続きに必要な費用は高額になる傾向にあります。
会社更生法の申立てを裁判所へ行う際には予納金を納める必要があり、この予納金が高額になりやすいです。
会社更生法は基本的に規模の大きな企業で債権者が多い場合を想定した制度になるため、納める金額が高く設定されています。
予納金は企業の規模や財産状況、債権者数を考慮して決められますが、数千万円になることが多いです。
費用の捻出が困難な企業も少なくありません。
会社更生法の手続きは厳格であり、複雑なものです。
さまざまな手続きを通して公平性を維持しながら手続きを進めるためには時間が必要になるため、手続きの完了までの時間は1年~3年かかるとされています。
時間をかけて再建に取り組む余力がなく、迅速な手続きを望んでいる場合には会社更生法は向いていないといえます。
会社更生法の手続きの特徴として、経営陣の持つ権利が失われることが挙げられます。
そのまま経営陣を維持して会社の再建を目指したいと考える場合、経営陣の退任が必要になることはデメリットになるでしょう。
手続きが開始されれば、裁判所によって選任された更生管財人が経営権や財産の処分権を持つことになります。
会社を破産させることなく再建を目指すことが目的とされる法的手続きは、会社更生法だけではなく民事再生手続きというものも存在します。
民事再生手続きとはどのような手続きなのでしょうか?
民事再生手続きは、会社更生法と同様に経営が困難になった会社を再建させるための再建型の倒産手続きです。
民事再生手続きは、民事再生法という法律に沿って手続きが行われます。
民事再生法第一条には、以下のように定められています。
つまり民事再生は、債権者の決議で同意を得ることができれば、圧縮された債務を再生計画のスケジュールに沿って弁済を行う手続きです。
出典: e-Gov法令検索「民事再生法」
民事再生の手続きは、スポンサー型・自力再建型・清算型の3種類に分けられます。
スポンサー型は、他の企業に貸し付けや出資などの経済的援助を受け、会社の再建を目指す方法です。
スポンサー型ではスポンサーを公表できるので企業の信頼を回復しやすいというメリットがあります。
将来的な収益性が期待されるとスポンサー側が判断すればスポンサー型は成立しますが、スポンサーを見つけなければなりません。
スポンサーは他の企業に直接交渉するか、複数のスポンサー候補から入札式で選ぶことになります。
自力再建型は、圧縮された債務を自社の収益で返済していく方法です。
将来的に収益を上げ続けられる見込みがある企業が、経費の見直しやリストラなどを取り入れながら再建を目指します。
自力再建型は小規模企業で利用されることが多いです。
また、スポンサーが見つからないようなケースも自力再建型が選ばれる傾向にあります。
民事再生法は再建型の手続きですが、その中にも清算型も存在します。
清算型では、事業の一部もしくは全てを譲渡会社に移管して清算します。
会社更生法と民事再生法は同じ再建型の手続きという共通点がある反面、異なる点も複数あります。
会社更生法と民事再生法の手続きの主な違いを表にまとめたものが以下です。
会社更生法 | 民事再生法 | |
---|---|---|
対象 | 株式会社 | 法人・個人 |
費用 | 高額になる | 会社更生よりは低額 |
認可までの期間 | 長い | 短い~長い |
経営陣の継続 | 退任 | 継続可能 |
手続きの遂行者 | 更生管財人 | 債務者 |
担保権の扱い | 整理の対象 | 整理対象外 |
株主の権利変更 | あり | なし |
この表に記載された違いを詳しく解説します。
会社更生法と民事再生法の手続きの大きな違いは、手続きを利用できる対象です。
会社更生法は、株式会社に限定されています。
手続きに多額の費用がかかることもあり、株式会社の中でも規模の大きな起業の利用に限られてしまいます。
一方で、民事再生法を利用できる対象に制限はなく、株式会社だけではなく合資会社や合同会社などの法人も利用できます。
また、個人も活用が可能です。
会社更生法の手続き費用は高額になりますが、民事再生法の手続きは会社更生手続よりは費用を抑えやすいという違いがあります。
会社更生法の手続きは複雑なので、裁判所へ納める予納金が3,000万円~5,000万円など高額になります。
一方で、民事再生法の手続きは負債額によって予納金は異なりますが、会社更生法よりも金額は低い設定です。
民事再生法の手続きにおける予納金は、以下の通りになります。
負債額 | 予納金 |
---|---|
5,000万円以下 | 200万円 |
5,000万円~1億円 | 300万円 |
1億円~5億円 | 400万円 |
5億円~10億円 | 500万円 |
10億円~50億円 | 600万円 |
50億円~100億円 | 700万円 |
100億円~250億円 | 900万円 |
250億円~500億円 | 1,000万円 |
500億円~1,000億円 | 1,200万円 |
1,000億円以上 | 1,300万円 |
会社更生法は申立てをしてから1年以内で認可されることも多いですが、最長で3年以内に認可されることが一般的です。
申立から集結までは平均2年とされていますが、6年かかっているようなケースもあります。
一方で、民事再生手続きは申立てから2週間ほどで手続きが開始され、再生計画が認可されるまでは5カ月ほどが一般的です。
手続きの複雑さが異なるため、認可までの期間にも違いがあるといえます。
会社更生法では手続きが開始されれば経営陣は全員退任しなければなりません。
そのため、会社の再建に向けて現経営陣は携わることができず、経営権だけではなく会社の財産管理処分権も失われます。
一方で、民事再生法では現経営陣は続投可能です。
経営陣の退任で経営に出る影響を抑えたいという場合には、民事再生が選択される傾向にあります。
会社更生法も民事再生法もどちらの手続きも裁判所の認可や決定によって手続きが進められますが、手続きの遂行者がそれぞれ異なります。
民事再生法の手続きや会社の経営は、債務者である会社が行います。
一方で、会社更生法は手続開始決定と同時に更生管財人が裁判所より選任され、更生管財人によって会社更生法の手続きや会社の経営を行われます。
会社更生法では担保権者に別除権が認められず、担保のある債権も更生担保権として整理の対象になります。
一方で、民事再生法では担保権者に別除権が認められています。
そのため、担保のある債権は整理の対象外となり、民事再生法の手続きの外で担保権の実行されてしまいます。
担保のある債権を整理の対象にしたい場合は、会社更生法の選択を検討すべきでしょう。
会社更生法第167条では、更生計画の中で権利変更に関する事項について定める必要があると定められいます。
そのため、手続きの中で株主の権利に変更が生じます。
一方で、民事再生では株主の権利が変更されることはなく、引き続き株主のとしての権利を保有できます。
会社更生法の手続きは、会社が倒産によって消滅することを避けるための手続きであり、経営の再建を目指すことができます。
しかし、会社更生法の手続きにあたって高額な予納金が必要になるので、予納金の準備ができないというケースも多いでしょう。
また、経営陣の退任もあるので経営に出る影響が不安になるかもしれません。
一方で、民事再生手続きは会社更生法と同様に経営の再建を目指すことができながら、比較的コストを抑えることができます。
ただし、担保のある債権は整理対象外になるなどのデメリットがあります。
どちらの手続きにもメリット・デメリットがあるため、比較しながら会社の状況や資産に合った手続きを選びましょう。