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親の認知症による財産凍結を防ぐための方法を解説

最終更新日
2023年 12月22日
著者: 弁護士法人みらい総合法律事務所 
代表社員 弁護士 谷原誠

親の認知症による財産凍結を防ぐための方法を解説

認知症になると財産凍結される理由

親が認知症になれば、金融機関の口座など親名義の財産は凍結されることになります。
財産凍結は、認知症になった名義人を犯罪から守るための手段です。

また、認知症になれば判断能力が低下もしくは喪失されるため、取引内容を理解しないまま実行や契約を行ってしまうことや、詐欺・横領などの犯罪に巻き込まれる可能性があります。

家族だから金融機関も預貯金の引き出しなどに応じてくれるのではないかと考える方もいるでしょう。

しかし、認知症になったことを悪用して身内が口座名義人の財産を使い込んでしまうようなケースもあります。

そのため、金融機関は認知症になった方の財産を保護するために、親族という関係性であっても慎重な対応を取ります。

認知症によって凍結される財産とは?

認知症によって凍結される財産とは?

金融機関などが認知症であることを知れば財産凍結を行いますが、凍結される財産の種類は以下のものが該当します。

銀行の預貯金口座

認知症であることを銀行が知れば、本人の預貯金口座を凍結します。

預貯金口座が凍結されれば、原因の入金や引き出し、解約などの取引が行えなくなります。
年金が振り込まれたとしても、生活費や介護資金などの費用を引き出せません。

認知症によって口座が凍結される金融機関は、普通銀行や信託銀行、信用銀行、ゆうちょ銀行など多くの金融機関が該当します。

また、普通口座だけではなく定期預金などの全ての口座が凍結の対象になります。

預貯金以外の金融資産

認知症になって凍結される財産は預貯金口座だけではありません。

以下のような金融資産の取引も制限を受けます。

  • ・株式、証券の取引
  • ・保険の解約・変更
  • ・不動産売買
  • ・不動産の賃貸契約

 

認知症になれば本人の判断能力が低下するため、こうした取引も凍結されることになります。

全ての取引が凍結されるわけではない

親の死亡時には、口座凍結などと併せて全ての取引が凍結されることになります。

しかし、認知症では全ての取引が凍結されるわけではありません。

口座から自動引き落としになっている家賃や光熱費などがあれば、そのまま引き落としされます。

また、株の配当金や家賃収入を受け取るなど他口座からの振込もそのまま受けることが可能です。

親の認知症による財産凍結で受ける影響

親の認知症による財産凍結で受ける影響
親の認知症によって凍結される財産の種類について紹介しましたが、実際に財産凍結が起こればどのような影響が出るのでしょうか?

認知症による財産凍結で受ける影響について具体的に解説します。

本人・家族も預貯金を引き出せなくなる

口座の名義人が認知症になって金融機関の口座が凍結されれば、本人も家族も預金口座からお金を引き出せなくなります。

2021年に全国銀行協会より公表された指針によると、「認知判断能力が低下した本人とやむを得ず金融取引を行う場合は、診断書や医療費の内容の確認など、本人のための費用の支払いであることを確認した上で対応する」ことが望ましいとしています。

また、「認知判断能力が低下した本人の親族等との取引は、本人のための費用の支払いであることが明らかな場合に限り、親族等からの払出し依頼に限定的に応じる」としています。

ただし、これらは全国銀行協会の指針であり、実際の判断基準は各金融機関に委ねられています。

年金の引き出し、受取口座変更ができない

親が年金を受給している場合、認知症になっても年金の振込はこれまで通りに継続されます。
しかし、親が認知症になって金融機関の口座が凍結されれば、年金の引き出しができなくなります。

年金の受取口座を変更すれば年金を引き出せるようになると考えるかもしれませんが、年金の受取口座変更には本人確認が必要です。

そのため、受取口座変更もできません。

銀行の代理人カードは利用停止になる

銀行によっては、「代理人カード」や「代理人登録制度」など家族も利用できるようなサービスがあります。

代理人カードや代理人登録とは、口座名義人の親族にキャッシュカードが発行される制度です。

代理人カードがあれば親が認知症になっても口座からお金を引き出せると考える方もいるかもしれませんが、口座名義人の判断能力が低下している場合にはカード利用が停止されます。

なぜなら、代理人カードは口座名義本人に替わって口座を管理する目的で発行されるものではないからです。

介護費用や生活費を子供が負担することになる

親が認知症になって判断能力が低下すれば、口座の引き出しができないため、親の生活費や医療・介護費用を子供が立て替えることになります。

親が所有する不動産売却や株の売却などの取引ができないため、費用捻出する方法がありません。

介護期間が長くなるほど子供の金銭面での負担は大きくなり、子供の生活が困窮してしまうことが予想されます。

投資の損失が大きくなる可能性がある

認知症になれば株や証券取引が制限されることになります。

入院や介護費用を株などの売却で賄おうとしても、所有する株や証券は売却できません。

株や証券では配当金を受け取れるというメリットはありますが、株や証券の価値は日々変動しているため、取引が凍結されたからといって放置していれば損失が大きくなる可能性があります。

気付いた時には損失が膨らんでしまえば配当金のメリットはなくなるため、損失が大きくなる前に売却できるように判断能力がある間に対策をしなければなりません。

親の認知症で財産凍結が行われるタイミングについて

親の認知症で財産凍結が行われるタイミングについて
親が認知症だと病院で診断を受けても、すぐに財産凍結が行われるわけではありません。

病院の診断が金融機関へ通知されるわけではないため、本人に判断能力があって窓口やATMなどで適切に手続きをすれば、取引は可能です。

それでは、一体どのようなタイミングで金融機関は本人の判断能力の低下に気付いて財産を凍結するのでしょうか?

家族が金融機関へ相談などしたタイミング

親が認知症になって家族が介護する場合、介護や医療費など支出が増えるため、家族が本人に代わって金融機関で取引や手続きをしようと窓口で相談することがあります。

そうすると、相談内容を聞いた金融機関は口座本人の判断能力が低下していると判断し、財産凍結を行います。

ATMでの手続きならば問題ないと考える方もいるかもしれませんが、高額な現金の引き出しには本人確認が必要です。

また、暗証番号の誤入力や、キャッシュカードの破損・劣化などでATMが使用できなくなれば再発行には本人の意思確認が必要になるため、そのタイミングで金融機関が認知症に気付いて財産凍結することもあります。

名義人本人が窓口で手続きしようとしたタイミング

名義人本人が金融機関で何らかの取引や手続きをしようとした際に、銀行員が判断能力の低下に気付いて財産凍結が行われるケースもあります。

認知症の影響で暗証番号を忘れる、同じ内容の相談で何度も店舗を訪問する、通帳を頻繁に紛失するなどの行動があれば、金融機関は判断能力の低下を察知すると考えられます。

こうした場合、銀行では「名前」「生年月日」などを聞いたり、適切に署名ができるか確認したりします。

認知症による財産凍結を防ぐための予防法

認知症による財産凍結を防ぐための予防法

認知症によって財産が凍結されれば家族に迷惑をかけてしまうため、財産凍結されないように事前対策しておきたいものです。

認知症による財産凍結を防ぐためにできる予防として、次のような対処法が挙げられます。

生前贈与

判断能力が低下する前に、生前贈与によって家族へ資産を譲渡する方法が一つ目の財産凍結への予防法として挙げられます。

預金や不動産などの資産を家族へ贈与しておけば、贈与した財産は認知症になっても凍結されることはありません。

ただし、贈与する際には贈与税が発生する可能性があるため注意が必要です。

生前贈与を行う場合には、あらかじめ税理士へ相談しながら贈与税について調べておくことをおすすめします。

任意後見制度

任意後見制度とは、財産管理や生活・介護といった身の回りのサポートをしてもらう代理人を判断能力のある間に自ら選び、契約を結んでおく制度です。

本人の判断能力が著しく低下した段階で家庭裁判所へ後見監督人の選任申立てをすれば、任意後見人としての権限が発生します。

任意後見人は任意後見契約で定めた範囲での代理権を持ち、本人に代わって財産を管理できます。

ただし、認知症になった本人が死亡と同時に契約が終了するため、死後の財産管理などは別問題になってしまいます。

任意後見制度を利用する場合には、死後の財産分与についても考えておくと良いでしょう。

家族信託

家族信託も任意後見制度と似た方法です。

財産管理に関する判断能力が低下する前に、信頼できる家族へ財産の管理や処分を任せる人(受託者)を決めておく仕組みです。

親名義の口座から受託者の信託口口座へ現金を移し、信託契約で定められた内容に従って財産を管理します。

そのため、認知症で判断能力の低下や喪失が起こっても、信託口口座は本人口座とは別物として扱われるため、凍結されることがありません。

家族信託は契約締結時から財産管理を任せることになるため、判断能力が低下する前から始められます。

ただし、任意後見制度のように身の回りのサポートをする監護権は与えられないため注意が必要です。

財産凍結されてしまった場合の対処法

凍結されてしまった場合の対処法

認知症で財産凍結される前の予防策について解説しましたが、予防策を講じる前に判断能力が低下していると判断されて財産凍結されてしまうようなケースもあるでしょう。

財産凍結されてしまった後にできる対処法は、基本的に成年後見制度のみといえます。

成年後見制度とは

財産凍結されてしまった後にできる基本の対処法は、成年後見制度です。

成年後見制度とは、認知症や精神疾患などで判断能力が不十分になった人の生活をサポートし、不利な契約や詐欺などの犯罪から財産を守るための制度です。

家庭裁判所へ申立てを行うことで後見人が選任され、後見人は本人に代わって財産管理や契約行為を行えるようになります。

ただし、成年後見制度は裁判所へ申立ててから後見人としての権限を得られるまでには3~4か月の時間を要します。

そのため、すぐに生活費や医療費を口座から引き出すことはできないため、立て替えなければならない場合もあります。

また、成年後見人制度では、被後見人の財産は裁判所の管理下に入ります。

不動産の売却などには裁判所の許可が必要になることや、毎年裁判所へ財産を目的通り管理しているのか確認されることになるなどの負担があります。

専門家が法定後見人に選任になれば報酬が必要

法定後見人には家族だけではなく、弁護士や司法書士といった法律の専門家も就任できます。

ただし、専門家が法定後見人になった場合は、報酬の支払いが必要です。

報酬額は家庭裁判所が決定し、月額3万円前後が相場とされています。

被後見人が死亡するまで続くため、報酬は高額になることが予想されます。

まとめ

親の認知症による財産凍結が行われれば、子供が生活費や医療費などの立替をすることになり、凍結後には裁判所へ成年後見制度の申立を行う必要があります。

こうした負担を回避するために、親が元気なうちに財産凍結されないよう予防策を講じておくべきといえるでしょう。

生前贈与や任意後見制度などの手続きや疑問点は、弁護士に相談することでアドバイスやサポートを受けられます。

高齢になれば認知症だけではなく、さまざまな病気によって判断能力の低下や喪失が起こり、財産管理や身の回りのサポートに関しての問題が起こることが予想されます。

家族への負担やその他の犯罪へ巻き込まれるリスクなどを抑えるためには、あらかじめ予防としての対策を考えておくことが大切です。