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会社(法人)破産を決断すべきタイミングとは?

最終更新日
2023年 2月24日
著者: 弁護士法人みらい総合法律事務所 
代表社員 弁護士 谷原誠

債務超過や赤字決算が連続している会社では、融資を断られる等の資金ショートが想定される場合、なるべく早く決断して会社破産に着手すべきです。

後継者不足や黒字化の可能性の小ささ等、将来の不安が破産手続のタイミングを決めることもあります。

本記事で解説するように、破産は必要なら迅速に行うべき手続です。下記のサインに注意して、手続の費用・期間と遅れるリスクをしっかりと認識しましょう。

・赤字経営が将来に渡って継続しそう
・給料や取引先への支払いに遅れがある
・毎年個人の資金を会社に注ぎ込まなければ経営できない
・出資や追加融資を申し込んでも応じてくれない
・上記に近い状態で経営意欲が低下し、承継先や後継者もいない

 

会社破産を決断するタイミング

破産法では、会社破産の申立てが認められる条件として「支払不能」と「債務超過」を挙げています(法第15条・第16条)。

破産を進め始めた方が良いのは、多くの場合は支払不能よりも先にやってくる債務超過の段階です。

決算書をセルフチェックする経営者としては、債務超過=与信が得られない状態だと分かっていても「まだ大丈夫。なんとかなる」と思いたくなるものです。

そうは言っても下記の事実・状況を認識したなら、
緊急性も理解した上で「すぐ破産に踏み切るべきではないか」と自問すべきです。

黒字化の見通しが当分ない【緊急性:中】

任意交渉による債務圧縮や民事再生等といった再建型の手続は、黒字化の見通しが立つことが前提です。

今後も赤字が続くようならば、赤字が膨らんで会社自身が資産を処分してしまう前に破産管財業務に回してしまった方が、より多くの回収が望める点で債権者にとって有利です。

経営者らにとっても、再建型の手続を進めようとして結局出来ないようでは徒労と言わざるを得ません。

収支改善、新しいビジネスモデルの提案、リブランディングや顧客層の変更等、黒字経営に繋がる案は会社によって様々です。

検討して「実現可能性のある黒字化のアイデア」がないと分かった時は、早い破産手続に踏み切るべきです。

出資・融資を断られ続けている【緊急性:大】

追加の出資・融資の申込みを謝絶されるのは、営業以外にキャッシュを手に入れる手段がないことを意味します。

赤字経営が続いている状態なら、早晩資金が払底してしまうでしょう。

固定資産を適正価格で売って資金不足に耐える方法も考えられますが、結局のところ一時しのぎに過ぎず、むしろ運用資産がなくなることで経営状況は急速に悪化します。

会社経営は資金調達があってこそ成り立つものであり、調達手段が尽きた時は「なるべく早く破産手続に踏み切る」と考えるべきです。

従業員や取引先の支払い状況が悪化している【緊急性:大】

今は融資の返済に滞りがないとしても、従業員の給料や取引先への支払いを遅らせているのは危険信号です。

こうなると労働法や下請法等が絡み、支払いの相手の方が有利であるとして明日トラブルになってもおかしくありません。

影響は銀行等への返済にも及ぶようになり、対処しようとするうちに資金ショートや口座が使えなくなる等の状況に陥ります。

何らかの支払いが1回でも遅れるようなら、一刻一秒の余裕すらなしと見て破産手続を検討しましょう。

遅れている支払いは全て会社資産の換価・分配で補填されることを踏まえれば、手続は早い方が関係者全員にとって得です。

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経営者の意欲が低下し、承継先や後継者がない【緊急性:中】

赤字経営が慢性化している中で「もうやる気がない」「会社の引き継ぎ先がない」等の状況は、多少は資金に余力がある状態でも危険です。

そのままに惰性で経営しても、債務超過から抜け出せなくなり、やがて支払不能に陥るでしょう。

会社再建はモチベーションがないと始まりません。

現経営者の意欲がない、M&Aの相手や後継者が見つからないといった時は、これ以上危ない経営を続けて疲弊させることなく、速やかに破産を検討すべきです。

早めに会社破産を進めるべき理由


会社破産を先延ばしにしても、V字回復や赤字の解消は期待できません。

むしろ資金繰りや返済状況がますます悪化し、破産手続すらままならなくなったり、疲労が重なって経営者個人の再チャレンジ遠のいたりするリスクがあります。

タイミングを逃さず会社破産を進めるべき理由として、具体的にはお金と時間の問題が挙げられます。

破産費用がかかる

第1に言えるのは、破産申立てにも一定のコストがかかる点です。

支払いの内訳は予納金と弁護士報酬に大別でき、合計で最低でも50万円程度に及びます。

然るべきタイミングで破産申立てするなら、必要な費用を会社資産で確保できている状態でないといけません。

▼法人破産費用の目安

  • 管財事件の予納金
    50万円~
  • 少額管財の予納金
    20万円~(廃止の見込みが高い事案等)
  • 弁護士報酬
    50万円~150万円

 
※事案が大規模、複雑、債権者多数などの場合は、さらに費用がかかります。

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清算結了・会社の消滅まで1年以上かかることがある

会社を破産させて経営から解放されようにも、申立て後すぐというわけには行きません。

破産管財人による調査、会社資産の換価、債権者集会、分配等の手続き等を経て清算結了と法人格に至り、全体でざっと6か月から1年以上の時間を要します。

破産手続すべき時期がやってくると多くは経営改善が望めないことから、時間の空費が避けられる点で、より早く手続に踏み切った方が得だと言えます。

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会社破産の遅れが招くリスク


「もう少しやれるはず」「投資家やその他のお世話になった人に迷惑をかけたくない」といった想いは経営者として抱くものですが、会社破産すべき状況では逆の結果しか生みません。

債務超過に陥った後の流れを整理し、改めて自力再建の見込みの薄さを理解すると、無理をすれば様々なリスクを背負い込むことになると分かります。

▼債務超過後のデススパイラル
1.出資・融資申込の謝絶
2.調達手段の欠乏による資金不足
3.各種支払いの遅延(給料や原材料費等)
4.資金ショート
5.銀行や政策金融公庫に対する債務不履行
6.期限の利益喪失(一括返済への変更)
7.債務不履行

 

→状況が進むほど赤字が膨らみ、以下で挙げる5つのリスクが迫る

費用不足で破産手続が困難になる

第1のリスクは、会社の資産が払底するかそれに近い状態になり、費用の問題で破産手続を進められなくなる可能性です。

上記の状況に陥ると、経営者のポケットマネーや支援者の好意に賭けたり、各種支払いを止めて会社で資金をストックしたりする等の対処が必要です。

いずれにしても、然るべき時期の破産手続ほぼ不可能だと言わざるを得ません。

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督促によって営業に支障が出る

第2のリスクは、債権者らの督促による営業への影響です。

銀行や政策金融公庫が返済を求めてくるのは言うまでもないことですが、他に関係者も債権者だと言える点に注意しなければなりません。

従業員や、資材調達先・外注先等といった取引先です。これらの関係者と対立してしまうと、たちまち営業できなくなる状態に陥る恐れがあります。

法人口座の取引ができなくなる

第3のリスクは、法人口座が取引停止の措置を受ける可能性及びその影響です。

銀行融資を受けつつ当該銀行の口座に残高がある場合、債務不履行で期限の利益を喪失した段階等で、すぐ銀行預金と相殺され口座取引を停止されてしまうと考えられます。

こうなると取引先や客先との間でその銀行口座を使うことができなくなり
連鎖的に支払いできない相手が増え、債権者全員に経営難が知れ渡ってあっという間に事実上の倒産を迎えます。

情報が漏れて債権者が殺到する

第4のリスクは、ここまで挙げたリスクの実現に伴って情報が漏れ、債権者が殺到して大きな混乱が生じる可能性です。

どの債権者も、基本的には「会社に財産があるうちに出来るだけ多く回収したい」と考えています。

倒産寸前であることを知ってパニックに陥った債権者に詰め寄られると、資産を不適当に処分したり、債権者平等の原則に反して特定の相手だけ優先的に弁済してしまったりするかもしれません。

これらが破産障害事由(法第30条等)だと判断された場合、法律上手続できなくなる・遅延する等といったデメリットを被ります。

無理をすると経営者個人の生活を害することもある

第5のリスクは、無理が及ぼす経営者個人の生活への悪影響です。

特に責任感が強い人は、債権者らに義理を果たすため、個人名義でキャッシングして返済に充てようとするかもしれません。

店舗兼自宅で営む事業を法人化しているケースでは、督促によって生活の平穏が著しく乱されるとも考えられます。

結果として、健康を害したり、保証債務の履行等が無いにもかかわらず会社破産と共に個人破産を強いられたりする等、様々な悪影響が生じうると考えられます。

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経営難を意識した時のポイント


経営難を意識した時のポイントは「迅速な現状把握」と「適切なタイミングでの相談」に尽きます。混乱を避けるため意識したい点を追加すると、以下の心構えを持つことが大切です。

事実関係を正確かつ定量的に把握する

まず心がけたいのは、会社の収支・財務にまつわる事実関係を数字で正確に把握することです。会社の雲行きが怪しくなると定量的な状況からは目を背けたくなるのが人情ですが、ここで二の足を踏むとますます追い込まれてしまいます。

少なくとも直近の決算書や帳簿類の用意を、出来るだけ将来の入金予定や収支予測まで整理しておき、これらの進め方に不明点があれば迅速に専門家に頼りましょう

資産がある程度残っているうちに弁護士に相談する

最も重要なのは、会社に資産のストックがあるうちに弁護士に相談することです。
赤字のせいで資産が限界まで目減りした状態での破産だと、関係者が混乱する中で準備期間なく手続に踏み切らざるを得ません。

破産費用すらないとなると、資金を用意するため申立てまでタイムラグが生じ、弁護士が窓口となってくれるものの関係者の厳しい糾弾にさらされます。

何よりも心身の疲弊を避けるため、資産がある状態=先手を打ちやすく関係者が納得してくれる状態で弁護士に任せるようにしましょう。

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情報漏えいに注意する

破産申立ての前に経営難が関係者に知られることは、どんな相手であっても極力避けるべきです。

経営難が早期に広まってしまうと、想像より早く債権回収手続が進んでしまう等、状況の展開が早くなって破産申立てのタイミングを逸してしまう恐れがあります。

そもそも弁護士への相談は「廃業と会社再建のどちらが適切か」といった検討段階から始まるケースが多いところ、先に債権者が動けば、相談段階であるはずの本来の選択肢が失われてしまいます。

信頼する同業者や従業員・親族等であっても、秘密を守ってくれるとは限りません。会社の現状を話しすぎないよう用心しましょう。

おわりに│破産の決断が難しいと感じたら弁護士に相談を

債務超過に陥った時は、事実確認を進めて破産のタイミングを見極めましょう。決断しにくい時は、何から始めるべきか弁護士に聞いてみるのも一手です。

本記事で紹介した「資金ショートの前兆」や「モチベーション低下」等といった時期を逃してしまうと、いくら努力しても赤字は解消されず、下記のようなリスクが表面化します。

・費用不足で破産手続できない
・督促によって営業に致命的な支障が出る
・口座の取引停止により、混乱の中で倒産する
・情報が漏れて債権者が殺到し、後の破産手続に支障が出る
・無理しすぎ・判断ミスにより経営者個人の生活にも影響が出る

 

会社を破産させるにも費用の設定があり、同時にある程度の期間を要します。

少し余力を残した状態でスムーズに廃業・倒産させるため、より早い段階で専門家の的確な指摘・アドバイスを求めることが大切です。

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