会社(法人)に課される税及び社会保険料の支払義務は、破産手続終了時になくなるのが原則です。
ただし、一部例外も存在します。破産手続の効果を正確に把握し、どの支払いについて免れられるのか個別に見極めましょう。
本記事では、会社(法人)破産を決断しようとする時の疑問につき、次の3つに答えます。
目次
会社が破産すれば、最終的には法人税、法人住民税、社会保険料の事業者負担分等の支払義務は消滅します。
以下で説明するように「支払義務を負う者がいなくなれば、当然に債務も消滅する」との考え方によります。
前提として、破産手続が終了すると会社の法人格は消滅します。
法律上の破産手続の開始は、会社の解散事由(会社法第471条1項等)です。
厳密には、破産手続開始決定と同時に会社がなくなるわけではなく、弁済・配当が終わるまでは清算会社として存続します(破産法第35条)。
上記を踏まえて過去の判例を見ると、破産手続の終了と共に法人格が消滅すれば、その債務も消滅すると解されています(最高裁平成15年3月14日判決)。
判例は金融機関からの借入金について争ったものですが、税や社会保険料にも当てはめられます。
会社名義で課された税及び社会保険料は、単に「社長や株主が責任を取るべき」等といった理由で個人に移ることはありません。
何らかの契約や法的義務を課すときは、法人格と自然人(=個人)を区別するからです。
会社に対して個人が負うべき責任の範囲も、一部の会社形態を除けば、出資額や背任行為による損害賠償責任を超えません(有限責任)。
破産会社に課せられた税及び社会保険料がなくなるのに対し、個人に課せられる分は破産後も存続します。
法人破産のみ必要とする場合だけでなく、個人破産を一緒に進める場合も同様です。基本的な考え方を整理すると、以下のようになります。
代表者が法人の連帯保証をしている場合などの個人の破産手続では、配当が終了した後なお残る債務は免除(免責)されるのが原則です。
ただし、例外的に免除されない「非免責債権」と呼ばれるものもあり、租税等の債権は左記に該当します(破産法第253条1項1号)。
非免責債権の取扱いは、破産者の人格に左右されません。
会社が破産申立人となる場合に法人税等の支払義務がなくなるのは、破産手続終了と共に人格が消滅するという特殊事情によるものです。
自分自身の所得に基づいて公的な義務を負う代表者等の個人(=自然人)は、破産手続によって人格が消滅することは当然ありません。
法律上免除できない債務は個人破産後も観念できる、つまり個人の税や社会保険料の支払義務は残ると解釈されます。
個人の納税義務・保険料の支払義務が減免されることがあるとすれば、生活の困窮について役場等で措置してもらった場合だけです。
具体的には、次のような条件を満たした時が挙げられます。
失業状態もしくは所得減少が見られる場合、役場に相談すると減免措置を受けられる可能性があります。
全額免除の基準は厳しく、適用してもらえない場合は、免除後の税及び社会保険料を分割で支払うための相談が別途必要です。
生活保護受給を開始すると、前月分から税及び社会保険料はかかりません(法定免除制度)。
受給開始の前々月以前に所得税・住民税を滞納していても、国税徴収法や地方税法に基づき、回収のための差押えは入りません(滞納処分の執行停止)。
執行停止のまま生活保護を3年間受給し続ければ、滞納中の租税債権は消滅します。社会保険料も、受給開始時にあらかじめ申請しておけば免除されます。
破産を決断すると意識しなくなりがちですが、税や社会保険料の滞納分が今後どう扱われるのか理解しておきたいところです。
あまり滞納を長引かせると、突然差押えられて倒産したり、一般的な債権者の配当がなくなってしまったりする可能性があります。
この後説明する債務消滅の例外ケースも踏まえ、下記3点に注意しましょう。
税や社会保険料を滞納し続けると、差押え等の滞納処分があります。
処分の際、一般の取引先企業による債権回収の手続きとは異なり、確定判決等の債務名義は不要です。
ごく簡単には、経営難に陥って公的な支払いまで遅らせてしまった場合、備えがないまま今日明日にも差押えが入る可能性があると言えます。
万一の時は、その時点で資金がなくなって倒産させざるを得ません。
租税債権等は破産法上、財団債権として取り扱われます(第2条・第148条1項3号)。財団債権とは、配当を待つまでもなく弁済を受けられる債権です。
銀行融資等の一般的な債権とは異なり、税及び社会保険料は破産手続中も会社から最優先で支払われるべきものだと言えます。
会社の破産手続中は配当まで支払いを受けられない債権(破産債権)にも、優先順位が定められています。
税及び社会保険料のうち財団債権に属さないものは「優先的破産債権」または「劣後的破産債権」に分類されます。
会社が社会保険料を払わないとしても、従業員の不利益になることはありません。
納付義務は事業主が負うべきものであり、仮にその破産により債務が消滅して“踏み倒し”の状態になっても、労働者の給付額や加入歴に変化はないのです。
ただし、経営難に耐えかねて社会保険の資格喪失届を提出してしまったような場合は別です。
このような状況だと、給付額減少や保険給付の対象外になる等、従業員の損は避けられません。
納税義務は法人格消滅と共になくなるのが原則ですが、保証や第二次納税義務がある時は例外です。一定の条件に当てはまる場合は、個人や親族経営の会社、あるいは配当のあった一般的な債権者が納税義務を負うのです。
第1に考えられるのは、納税猶予のため個人を保証人としているケースです。
破産手続の着手前から猶予措置を受けている時は、担当者から求められて納税保証書を提出しているかもしれません。
書面で個人(代表者やその他の株主等)やその財産を担保としていれば、法人が納税義務を果たせない時に当該個人が引き継ぐことになります。
第2に考えられるのは、国税徴収法で定められる第二次納税義務者が存在するケースです(第33条~39条・第41条)。
税の滞納がある法人につき、滞納処分の執行もしくは解散があった時は、該当する個人が引き継がなくてはなりません。
法人税等の支払義務は破産する会社と共に消滅しますが、一部例外も存在します。税及び社会保険料の滞納額が相当に積み上がっているのも危険で、唐突な差押えによる倒産や配当減少に繋がります。
会社破産により免除されるもの・免除されないものを改めて整理すると、次のようになります。
法人税や社会保険料の事業者負担分が支払えない、あるいは役員報酬を止めて個人の税金が支払えないと言った状況は、既にいつ破綻してもおかしくない状況だと言えます。
これらの免除(破産による免責)が有り得るかどうかは、急ぎ弁護士に相談することをおすすめします。