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会社が破産手続に踏み切る場合、連帯保証人に対して残債の一括請求が行われます。
免責許可が下りても保証する人への請求がなくなるわけではなく、いわば返済しきれなくなった分を肩代わりさせることになります。
保証契約を結んだ人がどんな責任を負い、会社が融資取引の返済に応じられなくなったことで具体的にどんな悪影響があるのか、前もってきっちり整理しておきましょう。
連帯保証人とは、
実際に貸付を受ける人(=主たる債務者)と共に融資取引に参加し、
その債務を連帯して負担する人を指す言葉です。
ここで言う「連帯」は、主債務者が返済をしない場合に、借入金の残り全額につき責任を持って返済することを意味します。
連帯保証人が返済すべき範囲は、契約上何人いようと各々主債務の全額に及びます。
各々等しい割合で保証義務を負うものとする「分別の利益」(民法第456条)がないためです。
仮に、保証人が2人いる主債務につき不履行が生じたとして、その金額が1000万円に及ぶとしましょう。
この場合、単純保証なら100万円ずつ返済すれば済むところ、連帯保証だと債権者に資力を見込まれた人から順に全額1000万円の請求がかかります。
連帯保証人は、債権者からの請求があればいつでも返済に応じるべき義務を負います。
応じない場合、そのタイミングから強制執行・差押えを覚悟しなくてはなりません。
単純保証の場合に認められる2つの抗弁権を放棄し、どちらも行使できない状態にあるためです。
保証債務の履行を求められた際、まず主たる債務者に催告するよう債権者に請求する権利(主債務者が破産手続開始の決定を受けた時や、その行方が知れない時を除く)
保証人自ら主債務者につき「弁済する資力があり執行も容易である」と証明した時に、保証人より先に主債務者に対して強制執行するよう求める権利
会社が債務超過等に陥った時のために「連帯保証人を解除しよう」と考えるのはもっともですが、それは基本的に難しいです。
解除にあたって債権者と交渉する必要があり、応じてくれる望みはほとんどありません。
経営者が保証人となっているケースは保証解除のためのガイドラインが整備されていますが、既に赤字や債務超過がある時の適用は困難です。
会社の連帯保証人への請求は早い段階で始まり、保証人自身も債務整理を検討しなくてはならないのが一般的です。
保証債務の履行が求められるタイミング、要求される金額、会社が行う手続との関係については、次のようにまとめられます。
連帯保証人に請求される可能性は、契約上補充性がないことを理由に、早くも債務不履行が生じた時点で浮上します。
約定返済日が過ぎた、あるいは返済日前に債権者へ通知した等といったタイミングです。
連帯保証人への請求は残債一括払いとなり、融資契約を結んだ時に約束した計画での分割返済はできません。
会社に支払う能力がないと見なされた時点で、民法第137条及び契約条項により、期限が到来するまで全額返済を求めないとする「期限の利益」を喪失するためです。
一括請求に応じられる資力がなければ、連帯保証人自身も任意で債権者と交渉する等の債務整理を検討しなくてはなりません。
会社が破産しても、連帯保証人には効果が及ばず、保証債務の履行請求がなくなることはありません。そもそも保証とは主債務者の破産等に備える契約であるからです。
上記ルールは破産法を適用する時に限らず、特別清算や会社更生等にも同様の規定があります。
保証債務の履行により連帯保証人も債務整理せざるを得なくなった場合、当事者の合意に基づく私的整理・任意整理、あるいは民事再生法や破産法の適用といった法的整理を検討します。
もし破産手続に入るなら、自由財産(99万円以下の金銭や差押禁止財産等)を除いて財産の換価処分は避けられません。
中小企業(小規模事業者を含む)では、経営者自身が事業融資の保証人となることが多々あります。
このように経営者保証がついている会社では、会社と共に経営者自身も破産手続に入るのが一般的です。
その理由のひとつとして、資金繰りが難しくなった段階で個人名義の借入を増やしがちであることが指摘できます。
会社の倒産・廃業で保証債務の履行を求められた場合、連帯保証人に多大な影響があると言わざるを得ません。
親族や親しい知人・友人に保証をお願いしている時は、今後の人間関係を考慮して説明を徹底したいところです。
経営者保証では、生活の維持はもちろんのこと、経験を活かした再チャレンジに多大な影響があることを覚悟しなくてはなりません。
連帯保証人の債務整理に関する情報は、金融機関が加盟する信用情報機関に「異動=金融事故があった」ものとして記録されます。
異動記録がある限り、今後の新規借入は審査で断られる恐れが大きくなります。
事業融資を必要としない個人の生活では、クレジットカード発行やショッピングローン契約等、日常必要な与信枠の調達で苦慮することになるでしょう。
個人破産を選択する連帯保証人にとっては、ブラックリスト化より職業・収入・風評への影響の方が心配です。
具体的には次のような制限を受け、特に経営者保証なら、一時的に無収入になるのは確実で、経験を活かし新しい事業も始めるのも困難を極めます。
経営者保証付きの債務を整理するケースでは、会社と一緒に個人も破産するのが唯一の方法とは限りません。
一定の要件を満たせば、経営者保証ガイドラインに沿って債権者と協議し、免責許可と同じ効果を得ながらデメリットを軽減する方法を選択できます。
参考2:廃業時における「経営者保証に関するガイドライン」の基本的考え方
経営者保証ガイドラインを使うメリットは2つあります。
個人資産の処分はあるものの破産手続より多くを残せること、そして破産法による制限等のペナルティがないことです。
要件を満たしてガイドラインの全面的な適用が認められたなら、生活再建や再チャレンジに寄与する次のようなインセンティブがあります。
経営者保証ガイドラインを適用しようとする場合、最低でも以下5つの要件を満たす必要があります。
保証債務の整理に経営者保証ガイドラインを適用しようとする場合、以下1~ 3の要件を満たすことも求められます。
必要なのは、経営が行き詰まる前に見通しを立て、適切かつ誠実な経営判断と債権者対応に努める姿勢です。
第1に、債権者が個人破産と経営者保証ガイドラインの適用を天秤にかける時、後者の方がより多くの回収を見込める状況でなければなりません。回収見込額の増加分は、経営者の手元に残せる財産の価額にも影響します。
第2に、保証人につき破産法第252条1項で定める免責不許可事由が生じておらず(7年以内の免責取得を除く)、今後もその恐れがないことを要求されます。
免責不許可事由に該当するのは、債権者平等の原則を破って特定の債権者のみ返済する(=偏頗弁済)、不当な方法で融資審査を通したりする等といった場合です。
第3に、廃業を検討するに至る前には、返済能力の向上に向け真摯に努力していなければなりません。具体的には以下のような取り組みが求められます。
細かい点になりますが、督促や税につき連帯保証人にはいくつかの注意点があります。
また、稀にある相続が関係するケースでは、連帯保証が無関係の親族の負担となる可能性があります。
主債務者である会社は、破産・倒産の手続きを弁護士に依頼するのが一般的です。
依頼すると債権者に受任通知が送付され、これを機に会社に対する督促が止まります。
上記の督促停止の効果は、連帯保証人には及びません。つまり、保証人への督促をやめてもらうには、会社とは別に弁護士と契約する必要があります。
会社と連帯保証人等の個人がセットで破産する場合、税の支払い義務は会社の分(法人税や消費税)のみ消滅します。
個人に納付義務が課せられる所得税等に関しては、免責許可を受けた後も残ります。
そもそも租税等の請求権は非免責債権であり(破産法第253条1項)、法人破産のように納税者が消滅しない限り徴収・督促の対応は続くのです。
連帯保証人が死亡しても保証債務は消滅せず、相続人が地位を引き継いで支払っていくことになります。
経営者の急死をきっかけに廃業を選択するケースだと、これまで会社経営に関わってこなかった親族が予期せず支払いを求められる可能性に要注意です。
なお、保証その他の債務のせいで遺産総額がゼロかマイナスになってしまうなら、相続放棄の申述で支払い義務を免れる方法があります。
連帯保証人の責任は重く、債務者の返済能力につき信用がなくなった時点で全額肩代わりするよう求められます。
保証契約を結ぶ時はもちろんのこと、主債務者として経営難に見舞われた時も、計画通り返済できなくなった場合について下記の理解と説明が必要です。
経営に不安を感じた時は、ぎりぎりまで粘ろうとせず弁護士等の専門家に相談することが大切です。
早めに支援を得ることで、経営者保証ガイドラインによるデメリット軽減等といった「より良い選択肢」を増やせます。