会社の資金繰りが悪くなって倒産手続きを行う場合、「計画倒産」にならないように注意しなければなりません。
計画倒産は、法律用語ではありませんが、資金繰り悪化等でやむを得ず会社が倒産するのではなく、資産を隠したりして意図的計画的に債権者に損害を与えることを認識した上で倒産させることです。
このような計画倒産に該当すれば、違法行為として刑事罰や民事責任を負うことになります。
債務超過に陥った場合に債権者になるべく損害を与えないよう計画的に倒産することと、本稿でのいわゆる「計画倒産」は異なるため、正しく法律を理解して手続きを進める必要があります。
ここでは、倒産が「計画倒産」として違法になるケースや、計画倒産が負う責任、計画倒産を回避するためのポイントなどについて解説します。
目次
計画的に倒産手続きを行った場合、違法行為である計画倒産とみなされる場合があります。
一般的な倒産や、計画的に行う倒産と「計画倒産」は、どのような違いがあるのでしょうか?
計画倒産は、会社が意図的に経営を悪化させ、最終的に倒産に追い込む行為を指します。
計画倒産では、会社が倒産する前に意図的に資産を隠したり、不正な取引でお金を不当に移したりするケースが多いです。
こうした行為は、債権者や取引先に対する信義誠実の原則を侵害するといえます。
一方で、一般的な倒産は、景気悪化・業績不振など外部的な要因によって避けられない形で進行するため、会社側に詐欺や不正の意図があるわけではありません。
計画的な倒産の中には、会社が再建または清算することを目的として法律に基づいた正式な手続きを利用して行う倒産があります。
民亊再生法や会社再生法などの制度を利用して債務を整理しながら事業の継続・再構築し、従業員や取引先への責任を果たしながら会社を立て直していきます。
一方で、計画倒産の場合は、最初から「再建の意思がない」状態です。
債務や資産を意図的に操作し、倒産を仕組みます。
資産隠匿や架空取引で借金を増やすなどして債権者の利益を損ない、経営者自身や関係者だけが得をするように会社を倒産させます。
計画倒産が違法とみなされるのは、会社側が意図的に債権者を害する目的で行動した場合です。
次のような基準が計画倒産か否かの判断をする例です。
倒産の目的は、計画倒産が違法になるかどうかの重要な判断基準です。
リスク管理に基づく倒産は正常なものですが、不当な目的があれば計画倒産になる可能性があります。
正常な倒産は、経営者が事業の継続が不可能であると判断し、債権者や従業員への影響を最小限に抑えるために計画的に行うものです。
この場合、倒産手続きは法的に適正に行われ、債権者への配当も公平に行うのが正規の手続きです。しかし、中には法的手続きに必要なお金を用意できず、倒産してしまうケースもあります。
一方で、不正目的の計画倒産は、会社が意図的に財務状況を悪化させるなどして、債権者を欺いて利益を得ようとする行為です。
例えば、倒産を予定しながら融資を受ける行為や、支払うつもりがないのに大量の商品を仕入れて代金を支払わずに倒産するなどの行為が該当します。
計画倒産の違法性の判断基準には、故意の有無も関わります。
経営者が倒産の意図を持って行動した場合、その行為は故意に基づくものとみなされ、違法性が高まります。
例えば、倒産を予定しながら融資を受け、その資金を私的に流用する行為は、明らかな悪意に基づくものと判断されるでしょう。
また、倒産前に会社の財産を格安で処分して自己の利益に充てる行為も、不正と判断される可能性が高いです。
計画倒産は、意図的に倒産によって債権者からの責任逃れや、経営者の利益を図る行為です。
ここからは、どのようなケースで計画倒産として違法になるのか具体的に解説します。
倒産を予定しているにもかかわらず、金融機関などから新たに融資を受ける行為は、詐欺罪に該当する可能性があります。
返済能力がないことを知りながら融資を受けることは、金融機関を欺く行為とみなされ、詐欺罪として刑事罰の対象になる場合があります。
実際には存在しない債権や取引を計上し、利益を操作する行為は違法です。
計画倒産では、このように売上を偽装して会社の財務状況を意図的に良く見せ、融資を受けるなどの不正行為が行われることがあります。
虚偽の財務情報を提供することは、詐欺罪や会社法違反に該当します。
計画倒産では、会社の資産を隠匿することや、第三者に不正に譲渡することで、債権者からの回収を免れようとする不正行為が行われることがあります。
こうした行為は、詐欺破産罪や背任罪に該当します。
会社の資産を家族や関係会社に名義変更するケースも多いですが、債権者からの回収を免れようとして名義変更を行えば、違法行為とみなされる可能性があります。
倒産手続き中に代表者が失踪することは、証拠を隠滅する行為です。
代表者が失踪すれば債権者が債権を回収できなくなるため、詐欺破産罪や背任罪として罪に問われる可能性があります。
計画倒産は違法行為としてみなされ、法的に厳しく制裁される可能性があります。
計画倒産をした場合に負うリスクのある主な法的責任には、次のようなものが挙げられます。
計画倒産が犯罪行為と判断されれば、刑事罰を受ける可能性があります。
計画倒産に関連する主な刑事罰は、以下の通りです。
計画倒産において、返済能力がないと知りつつ融資を受けたり、仕入れを行ったりする行為は、詐欺罪に該当する可能性があります。
この場合、代表者が偽装して借入れを行い、その後に借入金を持ったまま逃亡するなどのケースが考えられます。
詐欺罪が成立すれば、最高で10年以下の拘禁刑が科されます。
破産手続きの前後に債権者を害する目的で以下の行為を行った場合、詐欺破産罪が成立する可能性があります。
こうした行為が破産手続き開始決定の前後に行われ、破産手続きが確定した場合、詐欺破産罪に問われる可能性があります。
詐欺破産罪が成立すれば、最高で10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金が科されます。
破産手続き開始を認識しながら、特定の債権者にのみ不当な担保を提供することや、債務の消滅につながる行為を行うことは、破産手続全体の公平性を損ないます。
例えば、親族や特定の取引先にだけ、期限前に返済することや、担保権を設定したりする行為が該当します。
こうした行為は、破産法第266条の特定債権者に対する担保供与等の罪として問われる可能性があり、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金または併科が科されることがあります。
会社の利益を故意的に害する行為や、自己または第三者の利益を優先させて会社に損害を与えた場合、背任罪や特別背任罪が成立する可能性があります。
例えば、会社の資産を不当に処分することや、自己の利益を図るために会社の資産を流用した場合などのケースが挙げられます。
背任罪や特別背任罪が成立した場合、最高で10年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金が科されます。
会社の金銭や財産を無断で着服する行為は、業務上横領罪に問われる可能性があります。
例えば、代表者が会社の資産を私的に流用した場合などが該当します。
業務上横領罪が成立した場合、最高で10年以下の拘禁刑が科される可能性があります。
計画倒産は、損害賠償や債権回収などの民事責任を負う可能性があります。
計画倒産に関連する主な民事責任は、以下の通りです。
取締役が職務を怠って会社に損害を与えて計画倒産が行われた場合、会社は取締役の任務懈怠を理由として損害賠償請求をすることができます。
また、株主は、代表訴訟を提起することが可能です。
代表訴訟は、株主が取締役の不正行為に対して会社を代表して訴える手続きであり、取締役の責任を追及するための重要な手段です。
また、取締役の不正行為が直接的に第三者に損害を与えた場合、第三者が取締役個人に対して損害賠償を請求することができます(第三者責任訴訟)。
取締役が職務を怠って計画倒産が行われ、債権者に直接的な損害を与えた場合、債権者は取締役個人に対して損害賠償請求を行うことが可能です。
これは会社法第429条の規定に基づくものであり、取締役に悪意または重大な過失が認められ、その行為によって第三者に被害が生じた場合に適用されます。
例えば、返済能力がないと理解していたにもかかわらず取引を続けて債権者に損害を与えたケースや、私的流用を放置したケースなどが該当します。
破産手続において、破産管財人は取締役の不正行為によって会社に損害が発生したと認められる場合、役員責任査定制度を利用して迅速に損害賠償額を決定することができます。
この制度は、損害額の査定申立てを簡易な手続きで行えるものです。
債権者が早期に損害の回復を図ることが目的とされています。
役員責任査定制度に基づく損害賠償額が確定し、異議がなければ、強制執行を通じて債権回収を進めることが可能となります。
計画倒産では法的な責任だけでなく、会社経営や社会生活におけるさまざまなリスクを負うことになります。
法的責任以外で負うことになるリスクの代表的なものとして、以下のようなことが挙げられます。
計画倒産が公に知られれば、会社や経営者の社会的信用は著しく低下します。
取引先や顧客からの信頼を失い、契約の解除や取引停止を選択する可能性が高まります。
従業員の士気も低下し、優秀な人材の流出を招く恐れもあるでしょう。
また、金融機関からの融資が難しくなり、資金繰りに困難をきたすことも考えられます。
こうした影響によって会社の再建は困難になり、経営者自身の今後の事業活動にも大きな障害になります。
計画倒産を進める中で債務整理や自己破産などの手続きを行うと、信用情報機関に事故情報として登録されることになります。
このことを、「ブラックリストに載る」とも言います。
事故情報が登録されれば、金融機関からの新規融資が受けられなくなります。
また、クレジットカードの利用停止や新規作成の不可、携帯電話の分割払い契約の難航など、日常生活にも支障をきたすようになるでしょう。
事故情報は、通常5〜10年登録され続けます。
計画倒産において、債権者が経営者に対して損害賠償を請求する場合、裁判所を通じて資産の差し押さえが行われることがあります。
差し押さえが執行されれば、個人の預貯金や不動産、車などの資産が差し押さえられ、生活基盤に影響が出ます。
とくに役員責任査定制度を通じて損害賠償額が確定して強制執行が行われる場合、迅速に資産が差し押さえられることになるため、注意が必要です。
倒産が違法にならないようにするには、法律を遵守して適切に手続きを進めることが大切です。
倒産手続きを進める際には、以下のポイントを押さえておきましょう。
倒産手続きにおいて会社の資産は、破産管財人によって換価され、債権者への配当が行われます。
資産の処分は、公正かつ透明に行われる必要があります。
例えば、資産の売却は市場価格に基づき、適正な手続きを経て行われるべきです。
不当に低い価格での売却や、特定の者への優遇措置は、債権者に対する不利益をもたらし、詐欺破産罪に該当する可能性があります。
そのため、資産処分の際には専門家である弁護士の意見を仰ぐなど、透明性を確保することが大切です。
倒産手続きにおいて、財産の隠匿や損壊、譲渡などの不正行為は厳しく禁じられています。
こうした行為があった場合、刑事罰の対象になります。
例えば、会社の資産を隠すことや、売却して現金化すること、第三者に資産を譲渡するなどの行為は不正行為です。
法的責任を問われるだけでなく、倒産手続き自体が無効となる可能性もあるため、適切に手続きを踏むことが重要です。
倒産手続きは複雑であり、専門的な知識と経験が必要です。
倒産が違法にならないように手続きを進めるためには、早期に弁護士や会計士などの専門家に相談し、サポートを受けることが重要です。
弁護士は、倒産手続きの適切な進行を支援するだけでなく、不正行為の防止や債権者との交渉など、多岐にわたる業務を担当します。
また、早期の相談によって法的リスクを最小限に抑えながら、会社の再建や再スタートの可能性を高めることができます。
計画倒産は、会社や経営者にとって重大な法的リスクを伴う行為です。
倒産手続きは、不正行為を行わないように適切に手続きを進めなければなりません。
法的責任を回避して円滑な倒産手続きを進めるためには、専門家である弁護士へ早期に相談することを推奨します。