会社を破産させる場合、会社の代表者である社長は破産手続きにおける義務や責任があるため、手続きへ関与します。
裁判所への申立てや必要書類の準備、破産管財人との対応などの実務だけではなく、破産に至る経緯や財務状況について説明責任を負います。
そして、適切な対応を怠れば、法的責任を問われる可能性もあるので注意が必要です。
ここでは、中小企業の会社破産の手続きで社長が関与する部分や、果たすべき義務や責任について解説します。
会社が破産する際、社長は経営の最終判断を担う立場として手続きの中心人物になるといえます。
まずは、会社破産と社長個人の責任の関係性や、破産手続きにおける社長の役割についてみていきましょう。
会社の破産手続きは、代表者である社長が主導して行うことが一般的です。
破産申立ては法人自身が行う必要がありますが、そのための法的な手続きは会社の代表権限を持つ社長の役割になります。
破産手続きは弁護士へサポートを依頼できますが、社長自身も必要書類の収集や提出、破産管財人への説明などの対応が必要です。
会社破産の手続きでは社長が実務的な負担や説明責任を負うため、重要な役割になるといえます。
会社破産において社長は手続きを主導する人物ですが、会社と社長個人は別物です。
法律上では、会社と社長個人はそれぞれ独立した「法人格」を持つ存在として考えられています。
そのため、会社が負う債務について、社長個人も同様に責任を負うことはありません。
つまり、会社の借金や未払いの債務を社長個人が返済する義務はないという考え方が基本的なものです。
ただし、銀行融資や取引先との契約において、社長が連帯保証人になっているケースも少なくありません。
このような場合は、会社の破産と同時に社長個人にも返済義務が発生します。
会社の破産手続は、裁判所に申し立てをして手順を踏んで破産手続開始決定まで進みます。
破産手続きの流れにおいて、社長が関与する部分は以下の通りです。
会社を破産するには、まず破産申し立てをするための準備を行うことから始めます。
社長は弁護士と連携し、財務資料や契約関係書類、資産・負債の一覧など書類収集・整理を行う必要があります。
これらは裁判所へ提出する重要な資料であり、不備があれば手続きに支障をきたします。
破産の申し立ては、原則として会社の代表者である社長が行います。
実際の手続きは弁護士が代行することが一般的ですが、申し立て人としての名義や責任は社長にあります。
申立書には会社の現状や経営破綻の経緯を記載するため、社長はその内容確認と承認を行います。
申立書が受理されて破産手続き開始後は、裁判所によって選任された破産管財人が会社の財産管理や処分を行います。
この過程において社長は、財産の状況や取引履歴、経営判断の経緯などについて詳細な説明を求められます。
不正が疑われる場合は追及を受けることもあるため、誠実な対応が求められます。
債権者集会は、債権者に破産手続きの進捗を報告し、必要に応じて意見を聞く場です。
社長も出席を求められ、会社の経営破綻に至った背景や資産の状況について説明します。
ここでの態度や発言は債権者との信頼関係にも影響を与えるため、慎重に行動すべきです。
会社の破産手続きにおいて、社長には負うべき法的義務や責任があります。
法的義務や責任に違反するような行動をすれば、刑事責任を問われることもあるため注意が必要です。
会社の破産手続きにおける社長の負う法的義務と責任には、以下のようなものがあります。
会社が債務超過に陥って支払い能力を喪失した状態になり、そのままでは債権者への弁済すべき財産が減少するような場合、社長には速やかに破産手続を申し立てる法的義務があります。
破産申立の義務が明記された条文が存在するわけではありませんが、会社法第355条では「取締役は、法令及び定款を遵守し、会社のために忠実にその職務を遂行しなければならない。」と規定されており、会社財産の保全と債権者の利益を守る責任の一環として社長が速やかに破産手続きを申し立てることは当然の措置といえます。
破産申立てを行うことは、社長としての法的責任を果たす重要な義務と捉えるべきです。
また、破産手続を遅らせたことによって債権者に損害が生じた場合には、会社法第429条に基づいて社長個人が第三者に対する損害賠償責任を負う可能性があります。
破産手続きにおいて、社長は債権者に対して誠実に対応するという義務を負います。
この義務は、破産法に明記されているわけではありません。
しかし、会社法第355条に規定されている社長が誠実に職務を遂行すべきという義務や、破産手続において者等が会社財産を把握して債権者に不利益が生じないように誠実な対応を求められることから、同様の義務が課されると解釈できます。
破産手続が開始されると、裁判所によって選任された破産管財人が会社財産の管理・換価・分配などを行います。
この際、社長は破産管財人に対して全面的に協力する義務があります。
具体的には、会社の財産状況や取引履歴の説明、帳簿書類の提出、資産の所在に関する情報の開示などが求められます。
協力を怠れば罰則の対象になるだけではなく、破産手続自体に支障をきたします。
社長には、会社の会計帳簿や取引記録などの重要書類を法定期間保存する義務があります。これは会社法や税法などによって定められており、原則として書類はその種類によって7年間あるいは10年間の保存が求められます。
帳簿などの書類は、破産手続で会社の資産状況を正確に把握するための重要なものです。
社長がこれらの書類の管理や保存を怠れば、債権者への説明責任を果たせません。
また、悪意をもって帳簿を改ざんまたは廃棄した場合は、詐欺破産罪などの刑事責任に問われる可能性もあります。
日頃から適正な帳簿管理を行うことが、社長としての基本的な義務と言えるでしょう。
破産手続き前後において、社長が会社の資産を不当に処分することは、法律で禁止されています。
破産法第252条では、財産の隠匿や仮装譲渡、偏頗弁済は、免責不許可事由に該当することが定められています。
例えば、破産申立てが視野に入っている段階で、特定の関係者に資産を移転させることや、相場より著しく低い価格で資産を売却したりする行為が該当します。
また、資産隠しや不正な財産処分を行えば詐欺破産罪になることが破産法第265条で規定されています。
会社の資産を破産前後に社長が勝手に動かすことは、刑事責任を含めたリスクを伴うため、注意が必要です。
会社の破産に関連して社長が不正行為を行った場合は、民事や刑事上で責任を問われる可能性があります。
代表的な罪としては、詐欺破産罪(破産法第265条)や、背任破産罪(破産法第264条)、特別背任罪(会社法第960条)などがあり、これらに該当する行為を行えば、逮捕・起訴されるケースも少なくありません。
具体的な刑事罰は、以下の通りです。
また、帳簿の改ざんや隠滅、虚偽申告なども刑事罰の対象です。
会社破産の前後で違法行為を行わないように、適切に対応することが大切です。
会社が経営破綻の危機に直面した際に、社長の冷静かつ迅速な初動対応が、破産手続や債権者・従業員への影響を最小限に抑えることにつながります。
破産手続きを検討する段階において、社長がまず取り組むべき対応は、以下の通りです。
経営が厳しくなって破産が現実的な選択肢になった時点で優先すべきことは、破産に精通した弁護士への相談や依頼です。
法律上の義務やリスクを理解せずに独断で行動すれば、債権者とのトラブルや刑事責任につながる可能性があります。
弁護士に依頼すれば、そうしたトラブルや法的リスクを回避することが可能です。
また、破産手続は複雑なものなので知識が必要ですが、弁護士に依頼することで必要書類の準備から債権者対応、裁判所とのやり取りまで一貫してサポートしてもらえます。
できる限り早い段階で相談・依頼をすることで、破産手続を円滑に進めることができます。
破産手続では、会社の財務状況や取引履歴を正確に示さなければなりません。
そのためには、帳簿や契約書、請求書、通帳コピー、売掛・買掛の一覧、在庫表、借入契約など、重要書類やデジタルデータを収集・保全し、整理しておく必要があります。
これらの情報は、弁護士や破産管財人、裁判所が会社の財産を把握し、適正に処理を行うための資料になります。
書類やデータの紛失や改ざんがあれば、手続きが滞るだけではなく、社長自身が法的責任を問われることもあります。
そのため、書類やデータの収集や整理は、弁護士と協力して行うことが大切です。
破産を申し立てるにあたり、債権者にどのように対応すべきか慎重に検討する必要があります。
特定の債権者だけ優先的に支払う「偏頗弁済」は破産法で禁止されているため、免責不許可や刑事罰の対象になりかねません。
債権者への連絡や説明は、弁護士など専門家を通じて行うことが望ましいです。
しかし、緊急の支払いや債権者からの問い合わせがあった場合には、誠実かつ中立的な態度で対応をしましょう。
従業員へ適切な対応を取ることも社長の重要な責任です。
突然の経営破綻は従業員に大きな混乱と不安を与えるため、情報の伝え方には十分な配慮が必要です。
弁護士と協議しながら破産申立て日や従業員の退職日、給与・退職金の取り扱いなどを整理し、社内向け説明資料を用意してから正式に通知することが一般的です。
混乱を避けるためにも、従業員への対応は計画的かつ段階的に行うようにしましょう。
破産手続を開始する前に、会社の財産状況を正確に把握する必要があります。
どのような資産(現金、預金、不動産、在庫、売掛金など)があり、どの程度の負債(借入金、買掛金、未払金など)があるのかリストアップし、把握できるようにしましょう。
この作業は、破産申立書や財産目録を作成する上で必要になり、破産管財人にも破産手続に必要な資料として引き継がれます。
できるだけ早期にリストアップ作業を行うことで、破産手続もスムーズに進めやすくなります。
取引先や顧客にとっても、突然の会社破産は大きな影響を与えます。
取引の継続可否や納品遅延、預かり金・前受金の扱いなどについて、社長として誠意ある対応が求められます。
しかし、個別に返金対応や特別措置を行えば偏頗弁済と判断されるリスクがあるため、弁護士と相談して対応を統一することが重要です。
顧客への通知や資料の準備なども検討し、混乱や問い合わせの殺到を抑えるための工夫も必要です。
また、SNSや口コミなど外部への情報拡散にも注意し、広報方針を事前に定めておくと良いでしょう。
会社を破産させるには社長が主導して対応すべきことは多く、法的な責任や義務もあります。
そして、財産隠匿や帳簿改ざんなどの違法行為があれば、民事責任だけでなく刑事責任を問われる可能性があるため、適切な対応が求められます。
破産手続きの初期段階から弁護士のサポートがあれば、トラブルや混乱を招くリスクを最小限にでき、スムーズに破産手続きを進めやすくなります。
できるだけ早い段階で弁護士へ相談し、適切な手続きを進めることが安全かつ誠実な対応といえるでしょう。